博物館・美術館の新たな役割とデジタルアーカイブなどの課題|リットVRギャラリー

 70年ぶりの博物館法の改正

文化庁のホームページ
文化庁のホームページ

2023年4月1日に施行された改正博物館法。約70年ぶりの博物館法の改正により博物館や美術館には新たな役割が追加されました。当ブログが注目したのは下記の点です。

  • 博物館資料のデジタル・アーカイブ化を追加
  • 他の博物館との連携、地域の多様な主体との連携・協力による文化観光など地域の活力の向上への寄与を努力義務化

従来の博物館法では博物館や美術館の役割を「社会教育施設として、資料の ①収集・保管 ②展示・教育 ③調査・研究」と定義していましたが、今回の改正で「デジタル・アーカイブへの取り組み」「地域の文化観光への寄与」が追加されています。

出展:令和4年度博物館法改正の背景(文化庁)

デジタルアーカイブの現状

ジャパンサーチのデジタル・アーカイブ
ジャパンサーチのデジタル・アーカイブ検索

日本の博物館や美術館のデジタルアーカイブの実施状況についてインターネットで公開されている統計情報を調べてみたところ令和4年(2020年)の文化庁委託調査「博物館の機能強化に関する調査」に公開されていました。一部抜粋すると下記の通りです。

・デジタル・アーカイブの実施有無(n=1530 館)

実施している:24.4%
実施を検討している:26.4%
実施予定なし:49.2% 

・デジタル・アーカイブに関する専門知識を持った職員の有無(n=371 館)

常勤職員が在籍:17.3%
非常勤職員が在籍:6.5%
在籍していない:73.4% 

・デジタル・アーカイブ化された資料の公開の有無(n=373 館)

すべての資料を公開:9.1%
一部資料を公開:66.8%
公開していない:24.1% 

出展:博物館資料のデジタル・アーカイブ化の目的・状況について(令和4年6月28日)

2020年の調査結果から、デジタル・アーカイブ済みの施設は約25%、アーカイブした作品のデジタル展示で公開を行っている施設は9%という状況でした。今回の博物館法の改正に伴い、7割以上の博物館や美術館施設が今後、対応を迫られることが予想されます。

美術館のデジタルアーカイブにおける課題

文化庁は、博物館や美術館に収蔵されている文化財産のデジタル・アーカイブの重要性から、博物館法に博物館の事業として明確化しました。一方で、大学論文や行政機関の報告書でデジタルアーカイブについて多くの問題提起がなされています。当ブログが拝見した限りでは、デジタルアーカイブの課題は、下記に代表されると思われます。

  • 博物館、美術館の学芸員や職員は人手不足の傾向が強いが、法改正による対応業務の増加でその傾向がさらに顕著に
  • 著作権などの解決すべき周辺課題が多い
  • 小規模な自治体では、デジタルアーカイブ化やオンライン公開のための予算組みが難しい。

学芸員や職員の人数は、法改正前も決して十分ではないと言われています。この法改正で地域との連携や文化観光活動などの努力義務化でイベントなどの業務が増加、デジタルアーカイブ化の新たな取組は、人員不足で対応できないのでは?と、マスメディアからも指摘されています。

博物館・美術館が変わる 新たなイベント続々 現場からは危機感の声も…|NHK首都圏ナビ

多忙な学芸員

著作権に関しては、日本の近現代美術は著作権が現存する作品が多くあります。デジタルアーカイブ化を行い、オンラインで一般に公開するためには、アーティストご本人やそのご家族、管理団体といった著作権者の許可が必要です。著作権者の同意をとることに多くの時間が必要であったり障壁になる場合も多々あります。また、著作権者との交渉は、多くの場合、博物館・美術館の職員や学芸員によって行われ、先述した人員不足の問題もあり、対応が難しい場合があります。

小規模の自治体にも、多くの博物館や美術館があり、多くの収蔵品を有しています。しかし、多数の収蔵品を有する施設の場合、デジタルアーカイブ対応には多額の費用が必要になり、予算措置が難しい場合もあります。また法改正による学芸員の人員不足の解決(人員補充)にも予算が必要で、デジタルアーカイブ対応の優先度が下がってしまうケースも考えられます。

可能なデジタルアーカイブとオンライン展示で対応

今回の法改正で人員と予算を同時に解決する必要があり、地方の多くの博物館、美術館で難しい対応が迫られます。

一方でデジタルアーカイブ化の規格について文化庁資料では令和4年6月28日の「文化審議会第4期博物館部会(第2回)」の資料において「各館の状況や扱う博物館資料の性質に応じた対応が必要であり、メタデータの標準化・共通化は、デジタル・アーカイブ化の精度や範囲などについて、一律の水準を設けることを意味するものではない」と各施設の状況に応じたデジタル・アーカイブ化を容認し、規格には言及しない旨を記載しています。

著作権者の許可がとれている作品で、汎用的なデジタルカメラ等を活用し、職員や学芸員の対応ができる範囲でデジタルアーカイブ化を進めていくことも選択肢として検討してみてはいかがでしょうか?

また、デジタル・アーカイブ化した作品は、パブリッククラウドなどを活用すれば廉価な費用でオンライン展示が可能で、地域の文化観光イベントでデジタルPRとして活用すれば博物館法改正の追加された目的にも沿った企画になると思います。

[PR]アーカイブ作品のオンライン展示なら Lit VR Gallery!



リットVRギャラリーの資料請求

このブログの人気の投稿

オンライン美術館とは?おすすめのオンライン美術館も解説|リットVRギャラリー

新しい教育指導要領と博物館・美術館|リットVRギャラリー